初めての施設に1日だけ入る。物品の場所も、記録の方法も、その方の普段の状態も知らない。その状態でミスをしたら、自分が全額払うことになるのか。

先に結論を整理します。

  • 労働者が当然に全額を負担する仕組みにはなっていません。 最高裁は、使用者が被用者に求償できる範囲を「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」に限り、その事件では損害の4分の1を限度としました(3章)。
  • ただし「責任がない」でもありません。 民法709条は、故意または過失によって他人の権利を侵害した者に賠償責任を負わせています(2章)。
  • 看護職賠償責任保険は、日本看護協会の会員を対象とした制度です。 年間掛金は2,650円と案内されており、対人賠償は1事故5,000万円が支払限度額とされています(4章)。
  • 単発で分からないのは、施設が加入している保険が自分を対象にしているかです。 ここは施設の契約によるため、外からは読み取れません(5章)。
  • 契約が業務委託の場合は前提が変わります。 使用者責任の規定は「他人を使用する者」と「被用者」の関係を前提にしています(5章)。

この記事は、条文と厚生労働省の裁判例解説、日本看護協会の資料が何を示しているかを紹介するものです。個別の事案について、責任の有無や金額を判断するものではありません。 保険商品の比較もしません。

実際に事故が起きてしまった場合の報告と記録については「看護師が単発で入った日に事故・インシデントが起きたら」にまとめています。

用件からたどる

いま知りたいこと

読むところ

保険に入ったほうがいいのか

4章。判断材料を4つに整理しました

どの保険に入れるのか

4章

協会員でない場合はどうするか

4章

ミスをしたら全額払うのか

1章 → 3章

その日の給料から引かれるのか

3章

施設の保険の対象になるのか

5章

応募前に何を聞けばよいか

6章

保険のことを調べて来た方は、4章から読んでください。 1章から3章は、責任がどういう構造になっているかの整理です。

目次

1. 「ミスをしたら全額払うのか」という不安について

単発でこの不安が強くなる理由

常勤で働いていても、ミスへの不安は常にあります。ただ単発では、その不安の質が変わります。

  • 物品の場所を知らない
  • 記録の様式を見たことがない
  • その方の普段の状態を知らない
  • 誰に確認すればよいかが分からない

判断材料が足りない状態で動くことになります。 だから「何かあったらどうなるのか」を先に知っておきたい、という気持ちになります。

常勤でもミスは起こります。ただ単発で心配になるのは、その施設でしか通用しない情報を持たないまま動くという形です。

  • 申し送りで伝えられなかった禁忌や、その方に固有の注意点を知らずに進める
  • 同じ処置でも、その施設だけの手順や使用物品の違いに気づかない
  • その方の普段の動きを知らないまま介助して、転倒につながる
  • 物品や設備の置き場所を探しているうちに、対応が遅れる

これらは、経験の不足から起きるものとは別の種類です。 情報が渡っていないことから起きます。

賠償の話が出てくるのは、この結果として利用者に損害が生じた場合です。物品を壊した場合は対物の話で、扱いが分かれます(4章の補償内容の表)。

厚生労働省が裁判例を解説している

この論点について、厚生労働省は労働条件の情報サイトで裁判例を解説しています。「仕事上のミスを理由とする損害賠償」という項目が立っています。

つまり、労働者が仕事上のミスで損害賠償を求められる場面は、行政が説明を用意しておくほどには起こりうるものだということです。

そのうえで、解説が示しているのは 「使用者が労働者に請求できる範囲には限度がある」 という枠組みです。詳しくは3章で扱います。

「責任がない」と「全額払う」の間にある

ここで押さえておきたいのは、この論点が二択ではないことです。

「労働者は責任を負わない」でもなく、「起こした損害は全部自分で払う」でもありません。誰がどこまで負担するかという問題として組み立てられています。

その構造を見ていきます。

2. 条文はどうなっているか

民法709条 ― 不法行為の一般原則

まず出発点になる条文です。民法709条は次のように定めています。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

「侵害した者」とあります。 看護師個人も、この「者」にあたりえます。

つまり、看護師として働いているからといって、この条文の外にいるわけではありません。

民法715条 ― 使用者等の責任

もうひとつの条文があります。民法715条1項は、使用者等の責任として、ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うと定めています。ただし、使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたときなどについて、ただし書きが置かれています。

雇用されて働いている場合、使用者にも賠償責任が生じるという構造です。

被害者から見た構図

この2つを並べると、被害者の側から見た構図が見えてきます。

誰に請求しうるか

根拠

損害を与えた看護師個人

民法709条

その看護師を使用している事業者

民法715条1項

どちらか一方しか請求できない、という関係ではありません。

そして実務では、事業者が賠償を行う形になることが多くなります。そのあとに出てくるのが、事業者が働いていた人に請求できるか(求償)という問題です。 これが次の章の内容です。

自分がけがをした場合は、別の枠組みです

ここまでは、他人に損害を与えた場合の話です。

自分がけがをした場合は別の仕組みになります。針刺し、移乗の際の腰痛、移動中の事故。雇用されて働く場合は労働者として労災保険の対象になり、業務委託の場合は特別加入という別の枠組みがあります。

詳しくは「看護師の単発求人の「業務委託」とは」の6章と「看護師の単発バイトと社会保険・雇用保険・有給休暇」にまとめています。この記事で扱うのは、賠償の側だけです。

この章の出典

3. 求償の限度 ― 2つの裁判例

茨城石炭商事事件(最高裁 昭和51年7月8日)

厚生労働省の解説が挙げている1件目です。最高裁第一小法廷の昭和51年7月8日判決です。

判断の枠組みは、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」 求償できる、というものです。

そのうえで、この事件について最高裁は、被用者に求償できるのは「四分の一が限度」と判示しました。

ここは正確に読む必要があります。 4分の1という数字は、この事件についての判断です。「労働者の負担は常に4分の1まで」という上限が定められているわけではありません。

エーディーディー事件(大阪高裁 平成24年7月27日)

厚生労働省の解説は、もう1件を併記しています。大阪高裁の平成24年7月27日判決です。

同じ「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度で」という枠組みを用いたうえで、この事件では使用者の請求が認められませんでした。

2件を並べると見えることがあります。

事件

結果

茨城石炭商事事件(最高裁 昭和51年7月8日)

求償できるのは損害の4分の1が限度

エーディーディー事件(大阪高裁 平成24年7月27日)

使用者の請求は認められず

枠組みは同じでも、結論は事件によって違います。 だから「4分の1」を上限の目安として覚えるのは、正確ではありません。

何が考慮されるのか

厚生労働省の解説によれば、両事件に共通する判断の枠組みは、次のような事情を総合考慮するものです。

  • 事業の性格・規模
  • 労働条件
  • 勤務態度
  • 加害行為の予防または損失の分散についての使用者の配慮の程度

このうち2つが、単発で働く人にとって重い意味を持ちます。

単発に引きつけて読むと

「事業の性格・規模」と「加害行為の予防または損失の分散についての使用者の配慮の程度」。

これらは、その日に入った人には確かめようがありません。

  • その事業所がどういう体制で、どういう規模なのか
  • 事故を防ぐための手順や研修がどう整えられているか
  • 保険を含む損失の分散の備えがあるか

常勤で働いていれば、時間をかけて分かってきます。単発では、当日の数時間で分かる範囲を超えています。

だからこそ、応募前と当日の確認が意味を持ちます。 6章にまとめました。

賃金から差し引かれることはあるか

もうひとつ、現実的な疑問があります。「その日の給料から引かれるのではないか」という不安です。

労働基準法には、この点に関わる条文が3つあります。

労働基準法16条は、見出しを「賠償予定の禁止」として、次のように定めています。

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

あらかじめ「ミスをしたらいくら」と決めておくことは禁じられています。

労働基準法24条1項は、賃金について次のように定めています。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

賃金は全額を支払うのが原則です。 控除できる場合は限られています。

労働基準法91条は、見出しを「制裁規定の制限」として、次のように定めています。

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

減給の制裁にも上限が定められています。

この3つを並べると、働いた分の賃金と、損害の負担は別の枠で扱われるという構造が見えます。その日の賃金からその場で差し引く、という形を前提にした仕組みにはなっていません。

賃金の支払いそのものについては「看護師の単発バイトを当日キャンセルしたら?」の3章で詳しく扱っています。

個別の判断はしません

この記事では、あなたの場合にどうなるかを判断できません。

裁判例は個別の事案についての判断であり、同じ枠組みを当てはめても結論は事情によって変わります。実際に賠償を求められる状況になった場合は、加入している保険の窓口、弁護士会の法律相談、労働基準監督署などにご相談ください。

この章の出典

4. 看護職賠償責任保険とは何か ― 入るべきかの判断材料

日本看護協会の会員を対象とした制度です

看護職向けの賠償責任保険として広く知られているのが、看護職賠償責任保険制度です。

ここが最初に確認しておきたい点です。この制度は、公益社団法人日本看護協会の会員(開業助産師を除く)を対象とした制度として案内されています。制度の運営は同協会と、取扱代理店である日本看護協会出版会が行っています。

つまり、協会に入会していないと、この制度には加入できません。 「看護師なら誰でも入れる保険」ではありません。

入会の手続きは都道府県看護協会を通じて行います。会費は都道府県によって異なるため、この記事では金額を書きません。所属する都道府県の看護協会でご確認ください。

掛金と補償内容(2026年度)

同協会のページには、年間掛金2,650円と案内されています。

補償の内容として案内されているのは次のとおりです(2026年度の補償内容)。

補償の項目

どういう場面か

支払限度額

対人賠償

人の身体に損害を与えた場合

1事故 5,000万円(補償期間中 1億5,000万円まで)

対物賠償

物を壊した場合

1事故 100万円(補償期間中 100万円まで)

初期対応費用

事故が起きた直後の対応にかかる費用

1事故 500万円(1被害者 10万円)

人格権侵害

プライバシーや名誉に関わる損害を与えた場合

1事故 5,000万円(補償期間中 5,000万円まで)

法律相談費用

弁護士に相談する費用

1事故 10万円(補償期間中 30万円まで)

弁護士費用

弁護士に委任する費用

1事故 100万円(補償期間中 100万円まで)

「どういう場面か」の列は、項目名から読み取れる範囲の説明です。 何が対象になるかは約款によります。

対象となる損害賠償金として案内されているのは、他人の身体や財物に損害を与えたり、人格権を侵害したため、看護職に法律上の損害賠償責任が生じ、被害者に対して支払わなければならない損害賠償金です。

あわせて、就業中に受けたハラスメントについて弁護士に相談したり委任した場合の費用等も対象とされています。賠償の話だけでなく、こちらの用途もあるということです。

同協会は、医療事故が起きたときだけでなく、看護業務上生じた出来事を相談できることも制度の内容として挙げています。

掛金と限度額は年度ごとに変わります

上の数値は2026年度の案内に基づくものです。掛金も支払限度額も年度ごとに改定されます。

また、補償の範囲の詳細は約款によります。 同協会も、重要事項説明書や各保険のパンフレット等をよく読むよう案内しています。この記事の表は概要であり、約款の代わりにはなりません。

入ったほうがいいのか ― 判断材料は4つ

ここが、この記事を読んでいる方のいちばんの関心かもしれません。

当社として、加入を推奨も否定もしません。 個人が備えを持つかどうかは、その人の働き方と、すでに加入している保険によって変わります。そのうえで、判断の材料になる点を4つ挙げます。

1. 施設の保険の対象になるかを確かめられているか

確かめられていないまま働く回数が多いほど、自分の備えの意味は大きくなります。逆に、入る施設が決まっていて対象範囲も確認できているなら、判断は変わります(5章)。

2. 入る施設の数

単発では、施設ごとに備えの状況が違います。施設が増えるほど、対象範囲を毎回確認する手間も増えます。 自分の側に備えがあれば、施設ごとの確認の重さは変わります。

3. すでに加入している保険が業務中を対象にしているか

これを確かめずに「何か入っているから大丈夫」と考えているなら、そこが先です。次の節で扱います。

4. 掛金と限度額の対比

年間2,650円という掛金に対して、対人賠償の支払限度額は1事故5,000万円とされています。この対比をどう見るかは、ご自身の判断です。 ただし、加入には日本看護協会の会員であることが前提で、会費は別にかかります。 掛金だけで比べると判断を誤ります。

この4つのうち1番と3番は、加入を考える前に確かめるべきことです。 順番を逆にすると、必要のない備えを重ねることになりかねません。

協会に入会していない場合

単発で働いている看護師が、日本看護協会の会員であるとは限りません。では、協会員でない場合はどうするのか。

考えられる順番は次のとおりです。

  1. 施設の保険の対象になるかを確認する(5章)。まずここです。個人で備える前に、働く先の備えを確かめます
  2. すでに加入している保険を確認する。個人賠償責任保険を、自動車保険や火災保険の特約として付けている場合があります。ただし業務中の行為が対象外とされている場合があるため、約款の確認が要ります
  3. 協会に入会して制度を利用するかを検討する。手続きは都道府県看護協会です
  4. 他の取り扱いを調べる

2番目は見落とされやすい部分です。 「個人賠償責任保険に入っているから大丈夫」と考えていたが、業務中は対象外だった、という食い違いが起こりえます。

この記事では、どれを選ぶべきかを判断しません。 働き方と、すでに加入している保険の内容によって変わります。

他の取り扱いについて

看護職向けの賠償責任保険は、他にも取り扱いがあります。この記事では比較も順位付けもしません。 内容が異なり、どれが適しているかは働き方と加入している他の保険によって変わるためです。

確認するときに見る点を挙げるなら、次のようなものです。

  • 誰が加入できるか(団体の会員であることが条件かどうか)
  • 補償の対象になる業務の範囲
  • 勤務先で雇用されて働く場合と、事業者として受託する場合のどちらを想定しているか
  • 支払限度額と、補償期間中の通算の限度

このうち3つ目は、単発で働く人にとって特に重要です。 理由は5章で扱います。

この章の出典

5. 単発で分からないのは「施設の保険が自分を対象にしているか」

施設の側にも備えがあります

事業者が賠償に備えた保険に加入していることがあります。介護保険のサービスでは、指定基準が事業者に損害賠償を速やかに行うことを求めています(事故・インシデントの記事の2章)。

問題は、その保険が「その日に入った自分」を対象にしているかです。

常勤と単発で違う可能性がある部分

施設が加入している保険が誰を対象にするかは、その施設の保険契約の内容によります。

常勤・パートの職員

その日だけ入る人

施設の保険の対象

契約の内容による

契約の内容による

自分で確認できるか

入職時の説明や就業規則で確認しやすい

当日までに聞かないと分からない

確認する機会があるかどうかが、いちばんの違いです。 単発では「たぶん対象だろう」と考えるしかない状態で働くことになります。

自分の保険の側も確認が要ります

逆の方向も同じです。個人で賠償責任保険に加入している場合、その保険が単発の勤務を対象にしているかという論点があります。

加入している制度の約款で、対象となる業務の範囲がどう定められているかを確認してください。この記事では、特定の保険が単発の勤務を対象にしているかを判断できません。

だから応募前の確認になります

ここまでの話は、事故が起きてから調べると間に合いません。

保険の対象範囲は、事故が起きたあとに変えられるものではありません。 応募する前と、当日の始業前に確認する項目です(6章)。

タメシビで想定していること

タメシビは、看護師が1日単位で施設と直接雇用契約を結んで働けるスポット勤務サービスです。2026年内の開始に向けて準備を進めています。

この論点については、次のことを考えています。

  • 求人票に、その日の担当範囲を明示する。 引き受けていない業務を当日に頼まれる場面を減らすため
  • 報告先と連絡方法を求人票に書く。 事故が起きてから探さなくて済む形にするため
  • 応募前に確認できる項目を、求人票の側にあらかじめ載せる。 聞きにくいことを聞かなくて済む形にするため

考え方はこうです。この記事で「確認してください」と書いた項目は、本来、聞かなくても分かる形になっているべきものです。

担当範囲も報告先も、施設の側はすでに決めています。決まっていることが求人票に書かれていないために、働く人が聞き出す形になっています。聞く負担を働く人に置いたままにしないことが、求人票の設計でできることだと考えています。

一方で、賠償責任そのものは、雇用する施設と看護師の間の話です。 当社がこれを引き受けるという趣旨ではありません。施設が加入している保険の対象範囲も、施設が定めるものです。

具体的な方法はサービス開始時にお知らせします。

契約が業務委託の場合は前提が変わる

2章で見た民法715条1項は、「ある事業のために他人を使用する者」と「被用者」という関係を前提にした条文です。

業務委託の場合は、事業者どうしの関係になります。この関係を前提にした規定がそのまま当てはまるとは限りません。

同じように、3章で見た裁判例も、使用者と労働者の関係についての判断です。業務委託の場合に同じ枠組みで考えられるかは、個別の契約と事案によります。

雇用契約(直接雇用)

業務委託

民法715条の使用者等の責任

前提となる関係にあたる

事業者どうしの関係

3章の裁判例の枠組み

使用者と労働者の関係についての判断

そのまま当てはまるとは限らない

契約上の責任の定め

労働条件として明示される

契約書で確認する項目

賠償責任保険

雇用されて働く場合を想定した制度が中心

事業者向けの制度が別にある

表の右側では、責任の負担を契約書で確かめる必要が出てきます。

保険の話も賠償の話も、契約の形が分かっていないと詰められません。 求人票に「業務委託」と書かれているか、「雇用契約」と書かれているか。どちらとも読めない場合は、応募前の問い合わせの対象です。

契約の形の見分け方と、けが・賠償の扱いがどう変わるかは「看護師の単発求人の「業務委託」とは」にまとめています。

6. 応募前に確認すること

応募する前に

確認すること

なぜ

雇用契約か、業務委託か

賠償の前提が変わる(5章)

施設の賠償責任保険の対象に、その日だけ入る人が含まれるか

施設の契約によるため外からは分からない(5章)

自分が加入している保険が、この働き方を対象にしているか

約款の適用範囲を確認する(4章)

当日、始業前に

確認すること

なぜ

何かあったときの報告先と連絡方法

事故対応の入口になる(事故・インシデントの記事)

その日、自分に指示を出すのは誰か

判断に迷ったときの相談先になる

自分が担当しない業務の範囲

引き受けていないことを引き受けない

3つ目は、賠償の話と直接つながります。 求人に書かれていない業務をその場で頼まれることがあります。断ってよい場面でも、初めての施設では言いにくいものです。

担当範囲を始業前に確認しておくと、その場での判断が要らなくなります。 応募前の確認事項の全体は「初めての看護師単発バイト」にまとめています。

聞きにくいと感じたときのために

「保険の対象になりますか」と聞くのは、疑っているように感じられるかもしれません。

ただ、これは施設の側にとっても確かめておきたい項目です。事故が起きたときに保険が使えないと、困るのは施設も同じです。

聞き方としては、たとえば次のような形になります。

「万一のときの備えについて確認させてください。当日の勤務は、施設の賠償責任保険の対象に含まれますか」

答えがすぐに出てこない場合もあります。 その場合は「確認していただけますか」と伝えて、応募の判断はそのあとにしてください。

よくある質問

単発で1日だけ働く場合も、賠償責任を負うことがありますか

民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者」に賠償責任を負わせています(2章)。勤務の長さで条文の適用が変わる書き方にはなっていません。 そのうえで、雇用されて働く場合は使用者にも賠償責任が生じ、使用者が働いていた人に求償できる範囲には限度があります(3章)。

「ミスをしたら弁償」と求人票に書かれていました

労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり損害賠償額を予定する契約をしてはならないと定めています(3章)。あらかじめ額を決めておく形は、この条文が禁じているものにあたりえます。 気になる求人は応募前に問い合わせるか、労働基準監督署にご相談ください。

施設に「保険は大丈夫です」と言われました

何が大丈夫なのかを確かめてください。 施設が加入している保険の対象に、その日だけ入る人が含まれるかは契約の内容によります(5章)。「施設として保険に入っている」ことと「あなたがその保険の対象になる」ことは別です。

看護職賠償責任保険は、単発の勤務も対象になりますか

約款によります。この記事では判断できません。 日本看護協会も、重要事項説明書や各保険のパンフレット等をよく読むよう案内しています。加入している場合は、対象となる業務の範囲がどう定められているかを確認してください(4章)。

自動車保険に個人賠償責任保険の特約を付けています

業務中の行為が対象外とされている場合があるため、約款の確認が要ります(4章)。付けているだけで業務中も守られる、とは限りません。

事故が起きたら、まず何をすればよいですか

利用者の状態の確認と、その場の責任者への報告です。報告と記録の仕組みは「看護師が単発で入った日に事故・インシデントが起きたら」にまとめています。保険や賠償の話は、その後の段階です。

業務委託の求人でも同じですか

前提が変わります。民法715条は「他人を使用する者」と「被用者」の関係を前提にした条文で、業務委託では事業者どうしの関係になります(5章)。契約上の責任の負担を契約書で確認してください。

「4分の1まで」と覚えておけばよいですか

いいえ。 4分の1は茨城石炭商事事件についての判断で、上限として定められた数字ではありません。厚生労働省の解説が併記しているもう1件では、使用者の請求そのものが認められていません(3章)。

まとめ

仕事上のミスで損害が生じても、労働者が当然に全額を負担する仕組みにはなっていません。 最高裁は、使用者が被用者に求償できる範囲を「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」に限り、その事件では損害の4分の1を限度としました。

ただし「4分の1」が上限として定められているわけではありません。 厚生労働省の解説が併記しているもう1件では、使用者の請求そのものが認められていません。枠組みは同じでも結論は事件によって違います。

一方で、「責任がない」でもありません。 民法709条は、故意または過失によって他人の権利を侵害した者に賠償責任を負わせています。

判例が総合考慮する事情には、事業の性格・規模と、加害行為の予防や損失の分散についての使用者の配慮の程度が含まれます。この2つは、その日に入った人には確かめようがありません。 だから応募前の確認が意味を持ちます。

看護職賠償責任保険は、日本看護協会の会員を対象とした制度です。 「看護師なら誰でも入れる保険」ではありません。年間掛金は2,650円と案内されており、対人賠償は1事故5,000万円が支払限度額とされています。掛金も限度額も年度ごとに改定されます。

単発で分からないのは、施設が加入している保険が自分を対象にしているかです。ここは施設の契約によるため、聞かなければ分かりません。

契約が業務委託の場合は、前提が変わります。 使用者責任の規定は「他人を使用する者」と「被用者」の関係を前提にしているためです。

迷う場合の窓口は次のとおりです。

内容

窓口

加入している保険の適用範囲

その保険の窓口・取扱代理店

看護職賠償責任保険制度への加入

所属する都道府県看護協会

実際に賠償を求められた場合

弁護士会の法律相談。賠償責任保険に加入している場合は、先にその窓口へ。 法律相談の費用が補償の対象とされている制度もあります(4章)

賃金からの控除や労働条件に関わる場面

労働基準監督署

事故が起きた日の報告と記録は「看護師が単発で入った日に事故・インシデントが起きたら」に、単発勤務そのものの進め方は「看護師の単発バイト完全ガイド」にまとめています。

この記事の主な一次情報

法令

行政資料

職能団体

※法令と行政資料は2026年9月29日、掛金の案内は2026年9月30日に確認。法令および制度の内容は変わることがあります。掛金と支払限度額は年度ごとに改定されるため、加入を検討する際は日本看護協会の案内で最新の内容をご確認ください。この記事は条文・行政資料・制度の案内の紹介であり、個別の事案について責任の有無や金額を判断するものではありません。保険商品の比較や推奨も行っていません。約款の適用範囲については、加入している保険の重要事項説明書等でご確認ください。

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