看護師のダブルワーク(掛け持ち)とは、常勤やパートの勤務先を続けながら、別の勤務先でも雇用契約を結んで働くことです。 単発の勤務を足す形も、ここに入ります。
掛け持ちを考えるとき、確認することは1つではありません。社会保険、税金、就業規則、勤務の間隔、そして労働時間と労災——それぞれ別の制度です。
この記事は、そのうち労働時間の通算と労災を扱います。ほかの4つは、それぞれ専用の記事に送ります。
労働時間と労災を扱う理由は2つあります。 1つは、通算の仕組みが「自動的に行われるもの」ではないこと。もう1つは、労災の扱いが2020年9月に変わっていることです。
この記事の結論
- 掛け持ちで確認することは5つに分かれます。 この記事は1章の表で、どれをどこで読むかを案内します
- 労働時間は通算されます。ただし、通算されるのは「労働者からの申告等により把握した」労働時間です。 申告等がなかった場合には通算は不要、と厚生労働省の資料は書いています(2章)
- 割増賃金を負担するのは、所定労働時間については「時間的に後から労働契約を締結した使用者」、所定外労働時間については「所定外労働が行われる順」で判断されます(3章)
- 労災は2020年9月1日に変わりました。 複数の事業場で働いている場合、全ての事業場の賃金額を合算して給付基礎日額が算定されます(4章)
- 「複数業務要因災害」が設けられ、複数の事業の業務を要因とする傷病等も対象になりました。脳・心臓疾患や精神障害などです(5章)
読みたい箇所から確認する
- 1. 掛け持ちで確認することは、5つに分かれる
- 2. 労働時間は通算される——ただし「申告等により把握した」もの
- 3. 割増賃金は、どちらの職場が負担するのか
- 4. 労災は2020年9月に変わった
- 5. 複数業務要因災害——2つの職場の負荷を合わせて見る
- 6. 掛け持ちを始める前の順番
- 7. 確認したいこと
- 8. タメシビで想定していること
- よくある質問
1. 掛け持ちで確認することは、5つに分かれる
「ダブルワークは大丈夫か」という問いは、5つの別々の制度の話が混ざっています。 先に分けておくと、どこを調べればよいかが決まります。
確認すること | 何が問題になるか | どこで読むか |
|---|---|---|
就業規則 | 本業で副業の届出や許可が求められているか。公務員は別の定め | |
社会保険・雇用保険 | 加入は事業所ごとに判定される。有給の扱いも変わる | |
税金 | 源泉徴収のされ方、確定申告、住民税 | |
勤務の間隔 | 夜勤明けや連勤になっていないか | |
労働時間と労災 | 通算の仕組み、割増賃金、労災の給付 | この記事(2章以降) |
扶養の範囲で働きたい場合の金額(年収の基準)は、この記事でも `insurance`・`tax` でも扱っていません。「看護師の扶養内の働き方」にまとめています。
65歳以上の方は、雇用保険に2つの事業所を合算できる特例があります。 これは掛け持ちに固有の制度なので、「看護師は何歳まで働ける?」にまとめました。
2. 労働時間は通算される——ただし「申告等により把握した」もの
先に答えを置きます。雇用契約で掛け持ちをする場合、労働時間は通算されます。ただし通算されるのは、労働者からの申告等によって使用者が把握した労働時間です。申告等がなかった場合には通算は不要だと、厚生労働省の資料は書いています。
通算の根拠
厚生労働省の資料「副業・兼業における労働時間の通算について」は、次のように説明しています。
労働基準法において、労働者が企業に雇用される形での副業・兼業を行った場合、労働時間を通算します。
労働基準法38条1項が、事業場が異なる場合でも労働時間を通算することを定めています。本業と単発がどちらも雇用契約であれば、両方を合わせて見るという建て付けです。
通算の起点は、労働者の申告です
ここが見落とされやすい点です。同じ資料は、次のように続けています。
使用者は、自らの事業場における労働時間と、労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場における労働時間とを通算します。
「労働者からの申告等により把握した」——使用者が自動的に他の職場の勤務を知る仕組みはありません。
そして、資料は次のようにも書いています。
他の事業場での労働時間について、労働者からの申告等がなかった場合には労働時間の通算は不要ですが、適切な労務管理のため、労働者が自己申告等をしやすい環境づくりに努めてください。
申告等がなかった場合には、通算は不要。 制度の側がそう整理しています。
これが意味すること
使用者による通算は、労働者の申告があって初めて動きます。
ここで誤解されやすい点を、先に書いておきます。
この記述は、申告しないほうが有利だという意味ではありません。 資料自身が、続けて「適切な労務管理のため、労働者が自己申告等をしやすい環境づくりに努めてください」と使用者に求めています。制度が想定しているのは、申告されない状態ではなく、申告しやすい状態です。
申告しないままにすると、失うもののほうが具体的です。
申告しないと | どうなるか |
|---|---|
労働時間の管理 | 両方を合わせた労働時間を、誰も見ていない状態になります。負荷が数字として表に出ません |
就業規則 | 届出や許可が求められている職場では、手続きを飛ばしたことが職場との関係で問題になります |
勤務編成 | 間隔や連勤を調整する相手がいなくなり、自分ひとりで組むことになります(5章) |
ここで効いてくるのが、就業規則の届出です。 本業で副業の届出や許可が求められている場合、その手続きが申告の入口になります。手順は「看護師の副業禁止はどこまで有効?就業規則と公務員の確認手順」にまとめています。
通算した結果どうなるか
同じ資料は、通算の結果についてこう書いています。
通算の結果、1週40時間、1日8時間を超える労働(法定外労働)に該当する場合、36協定による労働時間の延長や、割増賃金の支払いが必要です。
つまり、通算した結果として時間外労働が生じうるということです。誰がその割増賃金を負担するのかが、次章です。
この章の出典
- 厚生労働省「副業・兼業における労働時間の通算について」(2021年4月1日) https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001079959.pdf
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
3. 割増賃金は、どちらの職場が負担するのか
先に答えを置きます。所定労働時間を通算する場面と、所定外労働時間を通算する場面で、考え方が違います。所定労働時間については「時間的に後から労働契約を締結した使用者」、所定外労働時間については「所定外労働が行われる順」で判断されます。
所定労働時間の通算
厚生労働省(愛知労働局)の解説資料は、所定労働時間の通算について次のように述べています。
時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超える部分が時間外労働となり
「時間的に後から労働契約を締結した使用者」です。契約を結んだ順番が基準になっています。
常勤やパートの勤務先が先にある状態で単発を足す場合、後から労働契約を締結するのは単発の勤務先の側になります。
所定外労働時間の通算
一方、所定外労働時間については、同じ資料が次のように述べています。
自らの事業場における所定外労働時間と他の使用者の事業場における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算して
こちらは「所定外労働が行われる順」です。契約の順番ではなく、実際に所定外労働が発生した順番で見ることになります。
2つの基準がある、ということ
場面 | 通算の考え方 |
|---|---|
所定労働時間 | 時間的に後から労働契約を締結した使用者 |
所定外労働時間 | 所定外労働が行われる順 |
契約の順番で決まる部分と、実際に働いた順番で決まる部分がある。 これが、掛け持ちの労働時間が分かりにくい理由です。
この記事では、個別の判定をしません
「自分の場合、割増賃金はどちらから出るのか」を、この記事で判定することはしません。 所定労働時間の設定、契約の前後、実際の勤務の順番によって変わるためです。
疑問がある場合の窓口は、労働基準監督署です。
賃金の計算方法を含む労働条件は、1日だけの勤務でも書面で明示される事項です。明示される項目と確認の仕方は「単発バイトに労働条件通知書はある?」にまとめています。
この章の出典
- 厚生労働省 愛知労働局「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2020年11月) https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/content/contents/000996170.pdf
4. 労災は2020年9月に変わった
掛け持ちで働く人に直接関わる変更が、労災にあります。
「複数事業労働者」という枠ができました
厚生労働省の資料は、複数事業労働者を次のように説明しています。
被災した時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者
常勤の勤務先があり、別の施設でも雇用契約を結んで働いている看護師は、この枠に入ります。
給付基礎日額が、合算されるようになりました
変更の中心はここです。同じ資料は、次のように書いています。
複数の事業場で働いている場合等については、全ての事業場等の賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額が算定される
全ての事業場の賃金額を合算する。
労災の給付額は、給付基礎日額をもとに計算されます。掛け持ちで働いている人にとって、その基礎が一方の職場の賃金だけになるのか、合算した額になるのかは、給付額に直接効きます。
この資料は、労働者災害補償保険法の改正による変更としてこれを説明しています。合算して算定するのは、改正後の扱いです。
施行日
2020年9月1日以降に発生したけがや病気等について対象となる
2020年9月1日以降に発生したものが対象です。日付で区切られているため、それ以前の情報を見ている可能性には注意してください。
この記事では、給付の可否や額を判定しません
労災として認められるか、いくら給付されるかを、この記事で判断することはしません。 請求と判断の窓口は、労働基準監督署です。
単発で入った日に事故やインシデントが起きたときの報告と記録の仕組みは「看護師が単発で入った日に事故・インシデントが起きたら」、賠償責任の範囲と保険は「看護師の賠償責任保険は必要?」にまとめています。
この章の出典
- 厚生労働省「複数事業労働者への労災保険給付」 https://www.mhlw.go.jp/content/000662505.pdf
5. 複数業務要因災害——2つの職場の負荷を合わせて見る
2020年9月の改正では、もうひとつの枠が設けられました。
複数業務要因災害
厚生労働省の資料は、次のように説明しています。
複数の事業の業務を要因とする傷病等についても労災保険給付の対象となる。対象となる傷病等は、脳・心臓疾患や精神障害などである
対象として挙げられているのは、脳・心臓疾患や精神障害などです。
なぜこれが掛け持ちに関わるのか
掛け持ちをしている場合、働いている時間と内容は2つの職場に分かれています。
複数業務要因災害は、名前のとおり複数の事業の業務を要因とする傷病等を対象にするという枠組みです。1つの事業場だけを見るのではない枠が設けられた、というのがこの改正の内容です。
判断はしません
どのような場合に認められるかを、この記事で示すことはしません。 認定の基準があり、判断は労働基準監督署が行います。
この記事で書けるのは、2020年9月1日以降、そういう枠組みが設けられたという事実までです。
負荷を自分で見るための物差し
制度の話とは別に、自分の勤務を見るための物差しがあります。
日本看護協会は「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」で、勤務間隔や連続勤務日数についての勤務編成の基準を示しています。掛け持ちをすると、勤務編成を自分で組むことになります。 考え方は「夜勤明けに単発バイトを入れてよい?|看護師の勤務間隔・連勤日数の目安」にまとめています。
夜勤を足す場合に、1回の勤務がどう扱われるかは「看護師の夜勤バイト」です。
この章の出典
- 厚生労働省「複数事業労働者への労災保険給付」 https://www.mhlw.go.jp/content/000662505.pdf
6. 掛け持ちを始める前の順番
1章の5つを、着手する順番に並べ直すと次のようになります。
1. 就業規則を確認する
届出や許可が求められているかを見る。公務員は別の定め
↓
2. 届出が必要なら、先に出す
これが労働時間の申告の入口にもなる(2章)
↓
3. 勤務の間隔を見る
夜勤明け・連勤になっていないかを、入れる前に確認する
↓
4. 労働条件を書面で確認する
始業・終業、賃金の計算方法、雇用主が誰か
↓
5. 保険と税金の扱いを確認する
社会保険・雇用保険は事業所ごと。税金は後から精算になることがある1番が先なのは、ここが決まらないと先に進めないからです。 届出が必要な職場で手続きを飛ばすと、後で問題になるのは制度ではなく職場との関係のほうです。
7. 確認したいこと
本業について
- □ 就業規則に副業の定めがあるか、届出・許可のどちらか(看護師の副業禁止はどこまで有効?)
- □ 届出の様式と提出先
- □ 所定労働時間(1日何時間、週何時間か)
足す勤務について
- □ 雇用契約か、そうでないか(業務委託と雇用契約の違い)
- □ 雇用主が誰か
- □ 始業・終業の時刻と、所定労働時間
- □ 賃金の計算方法(3章)
- □ 労働条件が書面で明示されるか
両方を合わせて
- □ 1週間の労働時間の合計
- □ 勤務と勤務の間隔(夜勤明けと連勤の判断)
- □ 連続して勤務する日数
- □ 社会保険・雇用保険の扱い(社会保険・雇用保険・有給休暇)
- □ 税金の扱い(源泉徴収・確定申告・住民税)
求人をどこで探すかは「看護師の単発の求人の探し方」、当日の持ち物と流れは「初めての看護師単発バイト」、単発勤務の全体像は「看護師の単発バイト完全ガイド」にまとめています。
8. タメシビで想定していること
タメシビは、看護師・准看護師が、施設と直接雇用契約を結んで1日単位で働けるスポット勤務サービスです。応募後、施設が内容を確認して勤務が確定します(事前の面接・書類選考はありません)。求人には、業務内容、必要な経験、持ち物、当日の流れを明示する方針です。
掛け持ちで使う場合、勤務先が施設であること(雇用主が誰か)がはっきりしていることが前提になります。 労働条件が書面で示される形を整えることを、サービスの前提に置いています。
タメシビは2026年内のサービス開始に向けて準備中で、現在はLINEで先行登録を受け付けています。
よくある質問
本業に申告しないで単発に入ると、どうなりますか
制度の面では、申告等がなかった場合には労働時間の通算は不要だと厚生労働省の資料が書いています(2章)。ただし、これは「申告しなくてよい」という意味ではありません。就業規則で届出や許可が求められている場合、その手続きを飛ばしたことが職場との関係で問題になります(看護師の副業禁止はどこまで有効?)。
割増賃金は本業と単発のどちらから出ますか
所定労働時間については「時間的に後から労働契約を締結した使用者」、所定外労働時間については「所定外労働が行われる順」で判断されます(3章)。個別の判定はこの記事では行いません。疑問がある場合の窓口は労働基準監督署です。
単発の勤務先でけがをした場合、労災はどうなりますか
2020年9月1日以降に発生したものについては、全ての事業場の賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額が算定されます(4章)。請求と判断の窓口は労働基準監督署です。事故が起きた日の報告と記録の仕組みは「事故・インシデントが起きたら」にまとめています。
社会保険は2つの職場で合算されますか
社会保険は事業所ごとに加入を判定します(社会保険・雇用保険・有給休暇)。労働時間の通算(この記事の2章)とは別の仕組みです。65歳以上の方については、雇用保険に2つの事業所を合算できる特例があります(看護師は何歳まで働ける?)。
扶養の範囲で掛け持ちしたいのですが
金額の基準は、この記事では扱いません。「看護師の扶養内の働き方」にまとめています。働く日数を自分で決められる点では、単発は調整しやすい働き方です。
業務委託の仕事と掛け持ちする場合も、労働時間は通算されますか
通算されるのは、雇用契約で働く場合です。 厚生労働省の資料は「労働者が企業に雇用される形での副業・兼業を行った場合」と書いています(2章)。自分が結んでいるのが雇用契約かどうかの確かめ方は「看護師の単発求人の「業務委託」とは」にまとめています。
掛け持ちで疲れがたまっている気がします
制度の話の前に、勤務編成を見てください。 日本看護協会が勤務間隔と連続勤務日数の基準を示しています(夜勤明けと連勤の判断)。掛け持ちは、勤務編成を自分で組むことになる働き方です。 入れない判断も、働き方の管理のうちです。
まとめ
掛け持ちで確認することは5つに分かれます。就業規則、社会保険・雇用保険、税金、勤務の間隔、そして労働時間と労災です。
労働時間は通算されますが、通算されるのは申告等によって把握された労働時間です。 申告等がなかった場合には通算は不要だと、制度の側が整理しています。だから、就業規則の届出が実務上の入口になります。
割増賃金は、所定労働時間については契約の順番、所定外労働時間については実際に働いた順番で判断されます。 2つの基準があることが、分かりにくさの理由です。
そして労災は2020年9月1日に変わりました。 全ての事業場の賃金額を合算して給付基礎日額が算定され、複数の事業の業務を要因とする傷病等も対象になりました。改正前の情報を見ている可能性には、注意してください。
この記事の主な一次情報
法令
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第38条 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
公的資料
- 厚生労働省「副業・兼業における労働時間の通算について」(2021年4月1日) https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001079959.pdf
- 厚生労働省 愛知労働局「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2020年11月) https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/content/contents/000996170.pdf
- 厚生労働省「複数事業労働者への労災保険給付」 https://www.mhlw.go.jp/content/000662505.pdf
- 日本看護協会「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」(2013年) https://www.nurse.or.jp/nursing/home/publication/pdf/guideline/yakin_guideline.pdf
※いずれも2026年10月2日に確認。法令・公的資料は改正されることがあります。この記事は条文と公的資料の紹介であり、個別の事案についての判断を示すものではありません。
タメシビの先行登録
タメシビは、看護師が1日単位で施設と直接雇用契約を結んで働けるスポット勤務サービスです。応募後、施設が内容を確認して勤務が確定します(事前の面接・書類選考はありません)。求人には業務内容、必要な経験、持ち物、当日の流れを明示し、働いてから、その職場で続けるかをご自身で選べます。看護師・准看護師の登録料・利用料は無料です。
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